夏の音
今年の日本では、例年よりも2週間〜3週間早く梅雨が明けた地域が多く、特に西日本では7月初旬には既に梅雨明けが宣言されました。関東甲信越でも例年7月20日頃の梅雨明けが、7月6日頃と異例の早さでした。
この早すぎる梅雨明けは主にチベット高気圧と太平洋高気圧の張り出しによるもので、梅雨前線が北へ押し上げられてしまったのが原因とされています。その結果、降水量も著しく減少し、「梅雨がほとんどなかった」という印象を持つ人も多いようです。
日本の夏を象徴する蝉の鳴き声ですが、2025年はほとんど聞こえてきませんでした。SNSやブログでも「セミの声が全然しない」「今年は蝉が鳴かない」と話題になりました。
蝉が鳴かなかった原因とは?
- 異常高温:6月の平均気温は平年よりも約2.3℃高く、1898年以降で最高記録を更新した地域も多数あった。
- 土壌の乾燥:雨が少なく土が乾いてしまったため、蝉の幼虫が地上に出にくくなっている。
- 生理温度制限:クマゼミなどは気温が35℃前後に達すると鳴き声を止める「熱中症状態」に陥ることが科学的に確認されている。
このように、異常気象と気候変動の影響が直接的に蝉の生態に影響を与えており、近年では沈黙する蝉の夏が年々増えてきています。
2022年から蝉の鳴き声が少ない気配は指摘されていました。ついに2025年には完全な沈黙に至り、これは単なる気象の揺らぎではなく、蝉の生活サイクルに及ぶ長期的変化の結果と捉えられています。
特に蝉は幼虫の状態で数年間土の中にいるため、今羽化している個体達は数年前の気候の影響を受けた世代。つまり、過去数年にわたる環境ストレスが累積した結果が、「蝉の声がしない夏」として現れた可能性があるのです。
2025年の夏は、例年より明らかに異なる気候パターンが広がりました。特に、「蝉の声がない夏」は、私たちが感じる「夏の風景」が少しずつ変わっていく未来を象徴しているかもしれません。
『撞鐘も 響くようなり 蝉の声』
これは松尾芭蕉の有名な俳句です。このような俳句が懐かしく思える時代が近づいていることはとても空しいことです。自然の声を聞くことができる今の時期だからこそ、環境の変化に意識を向ける機会でもあると考えます。
2025年の夏は、「暑さ」と「静けさ」という、相反する感覚が同居した特別な空間です。皆さんは、今年の蝉の声に、どんな気配を感じましたか? 聞こえなかった蝉の声の代わりに、どんな音があなたの心に残ったでしょうか。